「ミステリアスアイランドって、火山のところ」
たぶん、多くの人の認識はこのくらいだと思います。しかもここ、出入り口が3か所あって、メディテレーニアンハーバー、マーメイドラグーン、ポートディスカバリーへとつながっている。奥のエリアへ向かうとき、たいていここを通り抜けることになります。
だから「エリア」というより「通路」として記憶されやすい場所なんですよね。
でもこのエリア、パークの中でもかなり細かく設定が作り込まれています。しかもその設定、目の前の風景にほぼ全部出ています。電線がつながっていない電灯。噴火中だけチカチカ点滅する照明。ノーチラス号から立ちのぼる泡。
ただし、読むには前提知識が要ります。まずは、このエリアが何なのかというところから行きましょう。

ソルトです。設定の話から入りますが、これを知ってから通ると本当に景色が変わるので、少しだけお付き合いください。
ひと言でいうと「隠された秘密の研究所」
ミステリアスアイランドとは何かを一文にすると、こうなります。
天才科学者ネモ船長が、海図に載っていない火山島に隠した、秘密の科学研究所。
これがすべてです。エリア全体がひとりの科学者の研究拠点で、時代設定は1873年。舞台は南太平洋のどこかにある孤島です。
では、秘密の基地のはずなのに、なぜ私たちが中を歩けるのか。ゲストの立場は「ネモ船長に招かれた科学者」だからです。研究成果を見学しに来た客人、という扱いなんですね。
エリア設定の基本
・時代:1873年
・場所:南太平洋の火山島(海図にない孤島)
・正体:ネモ船長が隠した科学研究所
・ゲストの立場:招かれた科学者
ここから、「ネモ船長とは誰なのか」「なぜこの島だったのか」を順にほどいていきます。
そもそもネモ船長とは何者なのか

ネモ船長は、ディズニーのオリジナルキャラクターではありません。フランスのSF作家ジュール・ヴェルヌが『海底二万里』で生み出した登場人物です。ミステリアスアイランドは、ヴェルヌの『海底二万里』『神秘の島』『地底旅行』を土台にしています。
そして名前。ネモ(Nemo)とは、ラテン語で「誰でもない」という意味です。名前からして正体不明なんですね。
その設定は、パークの中でも徹底されています。公式ブログによると、ここを訪れた人でネモ船長の姿を見た人は誰もいないそうです。聞こえてくるのは声だけ。唯一その姿を確認できるのは、海底2万マイルの研究室に飾られた肖像画1枚だけだといいます。
基地の中は自由に歩き回れるのに、主にだけは会えない。この「不在」こそが、エリアの名前どおりミステリアスな空気をつくっています。
なぜ、この島に基地を作ったのか
公式の言い方を借りると、ネモ船長は自分の科学研究所を、この火山島に「隠しました」。つまりここは、隠すことが目的で選ばれた場所です。
理由は2つあります。

ひとつは、誰にも見つからないから。 1870年代は、欧米の国々が世界中に手を伸ばしていた時代です。その中でネモ船長が選んだのは、どの国にも属さない場所で研究を続けることでした。マーメイドラグーン側にある水門「ウィア・ゲート」が外海の波と部外者の侵入を防いでいるのも、この方針の延長線上にあります。
もうひとつは、火山があるから。 これが決定的です。

活火山って、普通は「危ないから避ける場所」ですよね。ネモ船長にとっては逆でした。
火山は脅威ではなく、エネルギー源だった

エリアにあるヴォルケイニア・レストラン。表向きはクルーの食堂ですが、その正体はプロメテウス火山の地熱を利用した発電所です。ここでつくられた電気が、基地全体に送られています。
さらにネモ船長は、この火山の内部を掘り進めて地底世界まで発見しています。
エネルギーが手に入り、誰にも見つからず、研究対象まで目の前にある。だからこの島だった、というわけです。
なお火山の名前プロメテウスは、ギリシャ神話で人類に火を与えた神から。カルデラ湖の名前は「ヴァルカンズ・コルドロン」で、こちらはローマ神話の火の神ヴァルカンの大釜という意味です。火の神の名前が二重に重ねられています。
ちなみに火山の高さは約51メートル。これはディズニーランドのシンデレラ城とほぼ同じ高さです。両パークのシンボルが同じ高さで揃っている、と考えると面白いですよね。
そしてこの火山、設定上は今も活動中の活火山です。1日に何度も炎と煙を噴き上げ、腹に響く轟音が鳴りわたります。エリアの中にいると本当に大きいので、初めてだと普通にビクッとします。
設定が風景に出ている3つの場所
ここからが本題です。前提を知ったうえで、実際に何が見えるのかを見ていきます。
① 電線のない電灯が、噴火中だけ点滅する

エリアの照明をよく見ると、電線がつながっている電灯と、どこにもつながっていないのに光っている電灯の2種類があります。
つながっていないほうは、地熱発電所から無線で電気を飛ばして光らせているという設定。1873年にワイヤレス送電を実現しているあたり、ネモ船長は完全に時代を超えています。
そして芸が細かいのが、火山が噴火している間、この無線の電灯がチカチカと点滅すること。噴火で発生する電磁波が送電を乱すから、という理由づけまでされています。
つまり轟音と点滅は、同じ現象の表と裏。噴火のタイミングでこのエリアにいたら、ぜひ照明を見上げてみてください。
② ノーチラス号の泡は「整備中」の合図

カルデラ湖に停泊している潜水艦がノーチラス号。ネモ船長が自ら造った鉄製の潜水艦で、乗船を許されているのは船長と部下だけという設定です。
ちなみにノーチラス(Nautilus)とはオウムガイのこと。殻の中の液体を調節して浮き沈みする生き物で、海水を出し入れして潜る潜水艦とまったく同じ仕組みです。名前は見た目ではなく、潜り方から取られています。
注目したいのは、周囲に立ちのぼる泡。あれは、クルーがいつでも出航できるよう整備を続けている証拠です。ただの水しぶきではありません。「いま、中に人がいる」という合図だと知ると、湖の見え方が変わります。

クレーンに吊り下げられた小型潜水艇がネプチューン号。ネプチューンはローマ神話の海の神です。火の神の山に、海の神の名を持つ潜水艇が吊るされているわけですね。
③ 溶岩よけのネットと、ベンチの正体

火口の下にあたる通路には防護ネット(スパター)が張られ、その上に降ってきた溶岩が乗っています。噴火のとき落ちてくる溶岩からクルーを守る設備、という設定です。足元には溶岩が流れた跡も残り、高温の水が噴き出す間欠泉まであります。
また、削岩機の説明図には「ネモニウム」という言葉が出てきます。ネモ船長が発見した新元素という設定です。自分の名前を元素につけて機械の動力にするあたり、無線送電を実現している人物ならやりかねません。

そしてエリアで見かける丸いベンチ。あれは本来ベンチではなく、船をロープでつなぐための係留柱「ビット」です。見学に来たゲストが休めるようにネモ船長が置いてくれた、という設定になっています。徹底的に無人島の科学基地なのに、ここだけ妙にやさしい。

地面や壁のあちこちにある「N」の文字も、もちろんネモの頭文字です。探しはじめると止まりません。
クルーへの合言葉「モビリス!」

ここで働くキャストは、ここだけ「クルー」と呼ばれます。ネモ船長の乗組員という設定だからです。
クルーには専用のあいさつがあります。左手を右肩に当てて「モビリス!」。ネモ船長の合言葉「モビリス・イン・モビリ(Mobilis in Mobili)」=変化をもって変化するが由来です。
クルーに「モビリス!」と声をかければ、「モビリ!」と返してくれます。
とはいえ、面と向かって言うのは恥ずかしい、という人もいると思います。そういうときは、通りすがりにボソッと言うだけでも大丈夫。それでもちゃんと「モビリ!」と返ってきます。

証拠は僕です笑。すれ違いざまに小さく言っただけでしたが、しっかり返してもらえました。
2つのアトラクションは、研究の続き
センター・オブ・ジ・アース|地下800メートルへ

『地底旅行』がベース。ネモ船長が火山の内部で発見した地底世界を、招かれた科学者として見学するという設定です。

入り口の対面にある巨大な削岩機は、地底を掘り進めるためにネモ船長が開発したマシン。そしてこの削岩機が開けた穴の形は、この先で入る洞窟「マグマサンクタム」の入り口とぴったり一致します。「この機械がここを掘った」と、言葉ではなく形で分からせてくる作り込みです。
待機列にはネモ船長の書斎や生物研究室が並び、アンモナイト、始祖鳥、さらに実在しない未知の生物の標本まで展示されています。化石を探すならここです。飛行艇「アルバトロス号」の模型もあり、削岩機が”地”、ノーチラス号が”海”、アルバトロス号が”空”と、探究が三方向すべてに及んでいることが分かります。
乗り場へは、ネモ船長が発明したエレベーター「テラヴェーター」で降ります。地下800メートル地点とつながる設定で、計器には深度や蒸気圧が表示されます。
海底2万マイル|”2万マイル”の本当の意味

ゲストは志願クルーとしてネプチューン号に乗り込み、海に沈んだ古代文明の謎を探る任務に参加します。
ここでひとつ、勘違いされがちなポイント。「2万マイル」は、海の深さではありません。ノーチラス号が海の中を移動した”距離”のことです。
「2万マイル」を分かりやすく
・× 海の深さが2万マイル
・○ ノーチラス号が海中を進んだ距離が2万マイル
・2万マイル ≒ 約3万2000km
・地球一周(約4万km)の、およそ8割
つまりネモ船長は、海の底だけで地球をほぼ一周しているわけです。
なお東京のノーチラス号は外から眺めるだけですが、ディズニーランド・パリには艦内を歩けるアトラクションがあります。中が気になった人はそちらで答え合わせができます。
まとめ|通路の見え方が変わる
最後に答え合わせです。
電灯が噴火中に点滅するのは、噴火の電磁波が地熱発電所からの無線送電を乱すから。ノーチラス号の泡は、クルーが出航に備えて整備を続けている証拠。ベンチが係留柱なのも、削岩機の穴と洞窟の形が一致するのも、根っこはすべて同じです。
1873年、南太平洋の火山島に隠された、誰にも姿を見せない科学者の研究所。この一本の設定から、目に見えるものすべてが逆算されています。
次にこのエリアを通り抜けるときは、まず照明を見上げてみてください。電線があるかないか、それだけで通路の見え方が変わるはずです。

おすすめは噴火のタイミングにここにいること。轟音と、点滅する電灯を同時に体験できます。
